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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)6911号 判決 1988年6月27日

原告 株式会社ファーイーストランバートレイディング

右代表者代表取締役 松野学

右訴訟代理人弁護士 吉田裕敏

被告 山本木材産業株式会社

右代表者代表取締役 山本亮

右訴訟代理人弁護士 松本成一

右訴訟復代理人弁護士 松本一郎

主文

一  被告は原告に対し、金三七八一万〇五二七円及びこれに対する昭和六一年六月二四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金四二三二万三九九六円及びこれに対する昭和六一年六月二四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、木材の輸入及び販売を業とする株式会社であり、被告は木材の買付け及び販売を業とする株式会社である。

2  原告は、昭和六〇年七月八日被告との間で、原告が左記運搬船によりアメリカ合衆国から輸入する米材丸太につき、左記約定でこれを被告に売り渡す旨の売買契約を締結した(以下「本件契約」といい、この契約の目的となった米材丸太を「本件木材」という。)。

(一) 目的物 米栂コリヤンソート(通常「Kソート」といわれる。)丸太、約一〇〇万スクリュブナー

(二) 運搬船名 イースタンリリー号(以下「E号」という。)

(三) 積み地 エバレット港

(四) 揚げ地 博多港

(五) 受渡し 博多港本船乗渡し(CIF渡し)

(六) 売買価格 平石一石当たりCIF博多五四〇〇円

(七) 支払方法 原告発行の荷渡指図書の提供と引換えに、E号が博多港に入港日を起算日とし一八〇日以内期日の訴外三鉱木材工業有限会社発行の約束手形に被告が裏書したものを交付して行う。

3  昭和六〇年八月二一日E号が博多港に入港したので、本件木材を検量したところ、本数は六一八六本、石数は四七五一・一二九立方米であり、一立方米=三・六石で換算して売買価格を算出すると、代金額は金九二三六万一九四八円となることが確定した。そこで原告は、約旨により、被告に対し、原告発行の荷渡指図書を提供すべく、その期日の打ち合わせをしようとしたところ、被告は原告に対し、本件木材が品質不良であるとして、その受領を拒絶する意向を示した。

4  しかしながら、本件木材は、Kソートとしての品質を十分備えたものであったから、原告は、被告に対し昭和六〇年九月二一日到達した書面をもって、同月二六日に被告の本店において原告発行の本件木材の荷渡指図書を提供したいので、これと引換えに額面を金九二三六万一九四八円とする第2項(七)記載の約束手形に被告が裏書して引渡すよう催告したうえ、同月二六日に被告に対し本件木材の荷渡指図書を現実に提供したが、被告は右約束手形の引渡しをしなかった。そこで原告は被告に対し、同年一〇月一六日到達した書面をもって、被告の債務不履行を理由として本件木材の売買契約を解除する旨の意思表示をした。

5  原告は 被告の債務不履行により、次のとおり合計金四二三二万三九九六円の損害を被った。

(一) 契約の解釈上、被告が負担すべき費用等

(1) E号から本件木材を荷揚げするための費用

① 荷役料 六三〇万三一〇四円

② 通関料 二万四八〇〇円

③ 仕役料 九三〇〇円

④ 虫害水切くん蒸等作業費 九万五九〇四円

⑤ 筏構造改善対策分担金 三万〇三六〇円

⑥ 博多港輸入木材対策分担金 三万四三六〇円

(2) 検尺及び年輪検査の費用 一九二万四七一六円

(3) 検疫関係賦課金 一三万九六四〇円

(4) 保管料 一七七万二三六六円

(二) 被告の受領拒絶後に生じた費用等

(1) 台風被害にかかる筏救助作業費 二六〇万二八〇〇円

(2) 沈木・紛失による損害 二七九万七二二九円

(三) 本件木材の転売による損害

(1) 転売損 金二三九四万五六九一円

(2) 転売のための船積料 二一一万三六七八円

(3) 水切土場セット料 五三万〇〇四八円

よって、原告は被告に対し、債務不履行による損害賠償として、金四二三二万三九九六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日の昭和六一年六月二四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の事実は、原告が被告に対し、本件木材の荷渡指図書を現実に提供したとの点は否認し、その余は認める。本件木材の品質については、後記のとおり、当事者間において合意がなされていたのに、原告は、右約定に基づく債務の本旨に従った履行の提供をしていない。

3  同5の事実中、(一)及び(二)の費用を被告が負担すべきであるとの主張は争い、その余は否認する。

三  抗弁

1  本件契約の目的物は、アメリカ合衆国産出の栂又は樅の丸太(Kソート)約一〇〇万スクリュブナーであって、その品質、数量については、原、被告間において次のとおりの合意がなされていた。

(一) 栂材 総量の七〇ないし六五パーセント

(1) そのうち八〇ないし八五パーセントはセミカスケード材(カスケード山脈の中間部で伐採された、やや目がつんだもの=原木の切口の中心部と周辺部との中間域において一インチ当たり八ないし一〇本程度の年輪が存在する木材)

(2) そのうち二〇ないし一五パーセントはコースト材(沿岸部で伐採された、目の粗いもの=同様に一インチ当たり五ないし六本程度の年輪が存在する木材)

(二) 樅材(ホワイトファー)総量の三〇ないし三五パーセント

(三) 以上いずれもフレッシュ材で、ミラー・シングル社によって伐採船積されたもの

2  ところが、昭和六〇年八月二一日博多港に入港したE号に積載されていた木材は、右の合意に反するものであった。すなわち、

(一) 栂材は、その大部分がコースト材で、セミカスケード材はほとんどなかった。

(二) 樅材が二〇パーセント位しかなかった。

(三) かなりの部分がミラー・シングル社ではなく、PLS社によって伐採船積されたものであった。

(四) その全部がフレッシュ材ではなく、古い木材であり、しかも曲材がかなり混入していた。

3  そこで被告は、直ちに原告に連絡し、同年八月二三日博多港において双方立ち会いのうえ右の事実を確認し、本件契約を合意解除した。

4  彼に合意解除の事実がなかったとしても、原告から提供された木材は、本件契約において定められた品質を満たすものではなかったのであって、原告は債務の本旨に従った履行の提供をしたとはいえない。したがって、被告がその受領と代金の支払いを拒絶したのは正当であって、解除権は発生しない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実中、本件契約の目的物が、アメリカ合衆国産出の栂材(Kソート)丸太約一〇〇万スクリュブナーであったことは認めるが、その余は否認する。

2  同2の事実は否認する。仮に、本件契約に、被告主張のような品質の約定があったとしても、本件木材は、被告のいうセミカスケード材八〇ないし八五パーセントの混入率を満足するものであった。

3  同3の事実中、被告からの連絡により、原告会社の担当者が同年八月二三日博多港に出向き、本件木材を見たとの事実は認めるがその余は否認する。

4  同4の事実は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実及び同2記載のとおり昭和六〇年七月八日原告と被告間で本件契約が成立したとの事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  本件契約の目的物が、アメリカ合衆国産出の、いわゆるKソートの栂材丸太約一〇〇万スクリュブナーであったことは、右のとおり当事者間に争いがない請求原因2に記載のとおりであるが、《証拠省略》によると、右にいうKソート(又はコリアンソート=Korean sort)とは、もともとは韓国向け仕分けの材を意味したが、現在では建築用材のグレードを示す用語であって、その中でも最下級のグレード(その下はパルプ材となる。)を意味していること、アメリカ合衆国産出の栂材は、通常、カスケード、セミカスケード及びコーストの三種(カスケードとは、カスケード山脈の高地において産出する目の細かい上質のもの、コーストとは、比較的低地ないし海岸部において産出する目の粗いもの、セミカスケードは、その中間のもので、年輪の数が一インチ当たり少なくとも七ないし八本以上のもの)の区別があるが、Kソートは、右のとおり最下級の材であるから、このような種別を指定して取引されることは殆どないこと、本件契約の契約書(甲第一号証)にも、目的商品として、「米材丸太(HEMLOCK KOREAN SORT)」とのみ記載され、それ以上に細かい品質の記載はなされていないこと、等の事実が認められる。

三  被告は、本件木材について右契約書の記載以上に細かな品質の合意がなされたと主張する(抗弁1)の検討するに、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件の取引は、昭和六〇年六月ころ、木材のブローカーをしている山元正利が、被告に対し、エバレット港にKソートの良い材があるが買わないか、との話を持ち込んだことから進展したものであって、同年七月八日被告会社に同人のほか、原告会社から野間営業部長と営業担当の松野康二郎が、被告会社から山本社長と、営業課長の杉山保雄がそれぞれ出席して、交渉が行われた。

2  その席上、被告会社の山本社長から、Kソートといってもセミカスケードを八〇ないし八五パーセント位は入れてほしいとの要望があり、なお、セミカスケードとしては、目合い(年輪)が切り口の中間域において一インチ当たり七ないし一〇本位あれば良いと説明を加え、これに対し、原告会社側からの出席者は、エバレット港積み出しのものはセミカスケードが多いから、七、八〇パーセント位入る旨応えた。そしてさらに、野間営業部長から、原告の発注先であるケンパック・トレイディング社(以下「ケンパック社」という。)に確かめてみてはどうか、との提案があった。そこで、その席から山元正利がケンパック社の東京支社及びアメリカのシアトル滞在中の同社社長検持正雄に直接電話をかけ、山本社長も電話に出て、確認したところ、検持社長もその点は確約したほか、ケンパック社では、主にミラー・シングル社が伐採したフレッシュ材を積むことになっていること及び伐採する山は、栂が七〇パーセント、樅が三〇パーセント程度の山であること等の応答があった。

3  このような折衝があって、本件契約が成立したのであるが、契約書(甲第一号証)は、後日原告において起案して、被告に送付し、被告がこれに調印したものである。

右のとおり認められ、これらの事実によると、本件木材は、「Kソートではあってもセミカスケードが七、八〇パーセント程度は入る良いもの」とする品質についての合意がなされていたものと認めるのが相当である。しかし、それ以上に細かな事項は、原告がこれを確約ないし保証したとまでは認められず、前期のとおり契約書にもその旨の記載はないのであるから、一応の目安として、被告がこれを期待しても不思議ではない状況であったといえるものの、これが本件契約の内容となったとまでは認め難い。また、目合いを数える方法として、《証拠省略》は、元口で計測すべきであり、このことは七月八日の交渉の際にもそのように述べている旨供述しているが、的確な裏付けがなく、《証拠省略》に照らし、たやすく採用できない。

四  昭和六〇年八月二一日E号が博多港に入港したこと、本件木材を検量した結果、本数は六一八六本、石数は四七五一・一二九立方米であり、一立方米=三・六石で換算すると、売買代金額が金九二三六万一九四八円と確定したこと、そこで原告は、本件木材の検量の完了をまって、約旨により被告に対し、原告発行の荷渡指図書を提供すべく、その期日の打ち合わせをしようとしたところ、被告は原告に対し、本件木材が品質不良であるとして、その受領を拒絶する意向を示したこと(請求原因3)は、当事者間に争いがない。

五  被告は、博多港に入港した本件木材(栂材)の大部分がコースト材であり、セミカスケード材はほとんどなかったと主張する。そこで本件木材の品質について検討するに、《証拠省略》によると、原告は、後記のとおり、本件契約を解除し、訴外株式会社なめらに対し、これを売却したのであるが、昭和六〇年一二月から昭和六一年一月にかけて四回に分けて博多港から搬出するについて、財団法人全日本検数協会に目合い(年輪)の検査を依頼し、同協会が右四回に分けて搬出された合計二〇九九本のうちの四〇〇本を無作為に抜き取り、丸太末口の中心から側までの二分の一のところでの一インチ当たりの年輪数を検査したところ、その検査結果は、別表記載のとおりであったことが認められる。これによると、目合い(年輪)の数が八本以上のものが八九・五パーセントの割合を占め、また平均値は一〇・八六本であったことが判明する。そして、元口で検査した場合は末口の場合より数本多めに出ることを考慮し、仮に目合い(年輪)の数が一〇本以上のものの割合を見ると、七〇・五パーセントとなる。この検査は、六一八六本の全部を対象としたものではなく、また直接検査した本数は四〇〇本にすぎないが、ことさらに公正を欠く方法でなされたとの反証もないから、一応全体の傾向を示しているものと見るのが相当である。《証拠省略》は、いずれも、本件木材がほとんどコースト材で、セミカスケードはほとんどなかったと述べているが、客観的な調査結果に基づきそのように述べたものとは認められず、原告のした右検査結果に照らしても、たやすく採用し難い。そればかりか、右の各証拠によると、被告は、本件木材を三鉱木材工業有限会社(以下「三鉱木材」という。)に転売することを予定しており、同会社の福場充が博多港に入港した本件木材を検分したところ、末口の中間域において八本位のものが多く、これでは目が粗くてだめだとの見解の下に、被告からの引き取りを拒んだことが認められるところ、《証拠省略》によると、同人は、セミカスケードといえる場合の目合いは一六本ないし三〇本であるとの見解を有していたことが認められるのであって、かかる見解は、七月八日被告会社に集った関係者の認識とは著しく食い違っていることが明らかである。このように、別の基準に基づいて本件木材がコースト材であるとする《証拠省略》は採用できないし、右認定の被告と三鉱木材との関係からすると、《証拠省略》が、本件木材がコースト材だというのも、同趣旨の理由から本件木材の引き取りを拒絶した三鉱木材の福場充の見解に引きずられて、そのように述べた疑いが存するところである。

してみると、博多港に入港した本件木材は、本件契約において原告が合意したKソートとしての品質を一応備えた木材であったものと認めるのが相当である。

なお、《証拠省略》によると、本件木材は、一九八五年(昭和六〇年)に伐採された新材であること及びその約八割強のものは、ミラー・シングル社が伐採したものであるが、その余はPLS社の伐採にかかる木材であったこと、ただしPLS社はミラー・シングル社より規模の大きな会社であって、PLS社の木材の方がかえって良質のものが多いこと等の事実が認められる。してみると、目合い(年輪)の数以外の面から見ても、本件木材の品質には、格別の問題はなかったものというべきである。

六  被告は、昭和六〇年八月二三日原告との間で本件契約を合意解除したと主張し(抗弁3)、《証拠省略》によると、被告の山本社長が、同日原告の松野康二郎に対し、本件木材の受領を拒絶し、荷を下ろしては困ると言って、荷役の中止を求めたところ、同人から、値段も含めて販売は任せるので荷を下ろさせてほしいと頼まれ、これを承諾したと述べている。しかしながら、《証拠省略》を合わせると、松野康二郎は、山本社長に対し、本件木材を受領してもらうよう種々説得していたことが認められるのであって、仮にその過程で右のような発言があったとしても、これをもって本件契約を合意解除したものと解釈することはできず、他に本件にあらわれた全証拠を検討しても、合意解除の事実を認めるに足りる証拠はない。

七  かえって、《証拠省略》によると、原告はその後においても、本件木材を被告に引き取ってもらうよう説得したが、被告は一貫して受領拒絶の態度であったことが認められ、したがって、代金を支払う意思もないことが明らかであったところ、以上に示したところによれば、被告の受領拒絶には正当の理由があるとはいえないものである。

これに対し、原告が、被告に対し昭和六〇年九月二一日到達した書面をもって、同月二六日に被告の本店において約定どおり原告発行の本件木材の荷渡指図書を提供したいので、これと引換えに額面を金九二三六万一九四八円とする約束手形に被告が裏書して引渡すよう催告したこと、これに対し被告が右約束手形の引渡しをしなかったので、原告は被告に対し、同年一〇月一六日到達した書面をもって、被告の債務不履行を理由として本件木材の売買契約を解除する旨の意思表示をしたこと(請求原因4)は、当事者間に争いがないから、右意思表示により本件契約は解除された。

八  以上によれば、被告は原告に対し、債務不履行による損害賠償を支払う義務があるものというべきである。そこで次に、損害賠償の額について検討する。

1  E号からの本件木材の荷揚げから解除に至るまで原告が支出した費用等

(一)  《証拠省略》によれば、原告は、本件木材をE号から荷揚げし、通関手続をし、検疫・検量等を行い、これらに関連する費用として、次のとおりの金員を支出したことが認められる。

(1) E号から本件木材を荷揚げするための荷役料等

① 荷役料 六三〇万三一〇四円

② 通関料 二万四八〇〇円

③ 仕役料 九三〇〇円

④ 虫害水切くん蒸等作業費 九万五九〇四円

⑤ 筏構造改善対策分担金 三万〇三六〇円

⑥ 博多港輸入木材対策分担金 三万四三六〇円

(2) 検尺のための検査費用 一一九万六七一六円

(3) 検疫関係賦課金 一三万九六四〇円

(二)  《証拠省略》によれば、原告は、荷揚げした本件木材の保管を訴外博多港開発株式会社に委託し、同会社に対し、解除に至るまでの保管料(ただし昭和六〇年一〇月分は一六日までの日割計算)を次のとおり支払い、また、この間の同年九月中旬に台風に襲われ、その際筏救助作業を余儀なくされ、次のとおり支出したことが認められる。

(1) 一〇月一六日までの保管料 七七万一八〇七円

(2) 台風被害にかかる筏救助作業費 二六〇万二八〇〇円

(三)  ところで、本件契約は、CIF渡しの約定であったことは請求原因2記載のとおりであって、この事実は当事者間に争いがないところ、CIFとは、Cost, Insurance and Freightの略であって、海上運賃及び保険料込みの値段を意味していることは公知の事実であり、証人杉山保雄及び同松野康二郎の各証言により、本件契約に即していうと、博多港に到着したE号から、木材を荷揚げする段階から後の費用は、買主である被告の負担となるとの趣旨であることが認められる。してみると、右(一)の(1)ないし(3)に掲げた費用は、本件契約上、被告が負担すべき費用であり、また(二)の(1)及び(2)記載の費用も、右契約の趣旨及びこれが被告の受領拒絶後に増加した保管費用であることを考慮すると、被告に負担させるのが相当である。

そうすると、被告は原告に対し、これらの合計額一一二〇万八七九一円を賠償する責任がある。

2  解除後に支出した費用等

(一)  《証拠省略》によれば、原告は、本件契約の解除後も、引続き本件木材の保管を博多港開発株式会社に委託し、同会社に対し同年一二月までの保管料(ただし昭和六〇年一〇月分は一七日からの日割計算)を次のとおり支払ったこと、この間本件木材の転売先を探し、ようやく同年一一月一四日株式会社なめらに対し、これを売却することができたが、同会社が船積みした際の船積料を次のとおり支払い、また同会社が船積みしないで現場で転売することにした分の陸揚げの際の費用(水切土場セット料)を次のとおり支払ったことが認められる。

(1) 保管料 九三万四三〇三円

(2) 転売のための船積料 二一一万三六七八円

(3) 水切土場セット料 五三万〇〇四八円

(二)  《証拠省略》によれば、原告は、被告が本件木材の目合いの数が少ないとして、その受領を拒絶したため、前記のとおり財団法人全日本検数協会にその検査を依頼し、その料金として、昭和六一年四月一七日同協会に対し、七二万八〇〇〇円を支払ったことが認められる。

(三)  ところで、被告は本件契約の解除後は、本件木材を自己の所有物として保管していたのであるが、《証拠省略》によれば、当時本件木材の買手を見付けるのは困難な状況にあったことが認められるから、解除後においても、原告がある程度の期間その保管をしなければならず、そのための保管料を必要とするであろうことは十分予測可能であったものというべきである。そして、株式会社なめらへの売却が著しく遅れたともいえないから、少なくとも解除から昭和六〇年一一月一四日に同会社に売却するまでの間の保管料(日割計算により金三五万七五四二円)は、被告の受領拒絶と相当因果関係にある損害であると認めるのが相当である。

しかしながら、株式会社なめらに売却した後は、原告は同会社のためにこれを保管していたものと解されるのであって(民法第四〇〇条参照)、受領拒絶との因果関係を肯定するのは相当でない。しかも、《証拠省略》によると、同会社は、同年一二月二日から逐次本件木材を船積みし、これを搬出していることが認められるのに、《証拠省略》によると、博多港開発株式会社は、同年一二月中も従前と同じ六〇四四本の保管をしたとして、保管料の請求をし、原告が支払った前項(1)の保管料にはこの分が含まれていることが明らかであり、同年一二月以降の保管料を被告の責に帰するのは、この面からも相当でない。また、同会社の船積みの際の船積料及び船積しないで現場で転売することにした分の水切土場セット料の如き費用の負担は、原告と買主である同会社との契約で定められるべき費用であり、仮にこれが売主負担とされる場合には、これを折り込んで代金額が設定されるものと考えられるから、いずれにしても、被告の受領拒絶とこれらの費用との間に因果関係を肯定するのは相当でない。

次に、原告が財団法人全日本検数協会に支払った料金は、自己の権利保全のためやむを得ない出費と認められるから、被告の受領拒絶との因果関係を肯定するのが相当である。

してみると、被告は、解除から売却に至るまでの保管料三五万七五四二円と目合いの検査料七二万八〇〇〇円の合計金一〇八万五五四二円については、賠償の責を負うべきであるが、その余の費用についての原告の主張は、理由がない。

3  得べかりし利益の喪失

(一)  本件木材六一八六本の、本件契約における平石当たりの単価が五四〇〇円、代金額が金九二三六万一九四八円(A)であったことは、請求原因3のとおりであって、当事者間に争いがなく、他方、《証拠省略》によると、昭和六〇年九月中旬に襲った台風のため、一四二本が流失したこと、それにもかかわらず、原告の株式会社なめらに対する売買契約においては、その目的物を一応本件契約と同じ本数(六一八六本)とし、平石当たりの単価を金四〇〇〇円、代金額を金六八四一万六二五七円(a)として取引されたことが認められる。右一四二本の流失は、その原因が台風によるものであり、特段の反証もないから、不可抗力によるものと認められるが、被告の受領拒絶後、原告の保管中に起きたことであるから、右一四二本を被告に引渡す債務が履行不能になったとはいえ、原告はその部分の代金債権を失わないものと解される。ところで、右一四二本の石数を認めるに足りる的確な証拠がないから、本件契約の代金中の、右一四二本の部分の金額を正確に確定することはできない。そこで、これを推認する方法として、全体の本数を基準として代金額を按分すると、右一四二本の部分の代金額は金二一二万〇一七八円(B)、残りの六〇四四本の代金額は金九〇二四万一七七〇円(C)となる。他方、株式会社なめらに対する売買契約は、少なくとも右一四二本については、数量不足なのであるから、代金の減額を免れないところ、右と同じ方法により、aの売買代金中の、右一四二本の部分の代金額を求めると、金一五七万〇五〇三円(b)となり、残りの部分の代金額は金六六八四万五七五四円(c)となる。

(二)  以上の事実をもとにして考えるに、本件契約は、前記のとおり被告の債務不履行により解除されたのであるから、原告の有していた代金債権は消滅し、そのうち流失した一四二本の代金に相当する部分、すなわちBの金額は、そのものが損害となる。

次に、右一四二本を除いた六〇四四本の部分については、その代金に相当するCの額から原告の手元に残った木材の価額を控除したものが損害となる。ところで、《証拠省略》によれば、本件契約時点から解除時点及びその後にかけて、輸入米栂丸太の相場は下落傾向にあり、これを米栂のコースト材についてみると、昭和六〇年七月に平石当たりの単価五六〇〇円だったものが同年一一月には五〇〇〇円となり、約一二パーセント下落し、さらに下落の傾向にあった(昭和六一年三月には四一〇〇円にまで下がっている。)ことが認められ、この事実に、本件木材が、被告との契約が解除されたことにより、いわば傷物となっていたことを考え合わせると、株式会社なめらへの売却額(a)は、被告との取引額(A)と対比し、かなり低いものではあるが、やむを得ない金額というほかはない。そうすると、六〇四四本の部分については、Cの額からcの額を控除した金額が損害となる。

以上によると、喪失利益額の損害は金二五五一万六一九四円である。

(三)  原告は、Aの額からaの額を控除した金二三九四万五六九一円そのものを転売損としているが、この主張を採用できないことは右に示したところから明らかである。

また、原告は、沈木・紛失による損害として、金二七九万七二二九円を計上している。そこで考えるに、《証拠省略》によると、前記のとおり、原告は株式会社なめらに対し、本件木材が六一八六本あるものとして取引したが、木材を運び終わった段階で、二六二本少なかったとして、その分の代金相当額二七九万七二二九円を請求され、これを支払ったことが認められる。しかしながら、二六二本のうちの一四二本については、前記のとおり、台風によって流失したものとして、すでに損害の中に折り込み済みであるが、その余の一二〇本については、どの段階で紛失したものか、これを認めるに足りる証拠がない。かえって、《証拠省略》によると、昭和六〇年一一月当時は六〇四四本が存在していたことが認められるから、この一二〇本の部分を損害に加えられるのは相当でない。

4  まとめ

以上1ないし3に示したところにより、被告が原告に対し賠償すべき損害額を合計すると、金三七八一万〇五二七円となる。

九  よって、原告の本訴請求は、金三七八一万〇五二七円とこれに対する訴状送達の日の翌日であることの明らかな昭和六一年六月二四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、認容するが、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条本文の規定を、仮執行の宣言について同法第一九六条の規定をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原健三郎)

<以下省略>

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